寡黙な男の凄み

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木戸修というレスラーがいた。

インターネット時代の今、情報や映像を探してもなかなか探しあてることができない。

キャリア的には日本プロレスからスタートして、新日本にも旗揚げから参加している。

旧UWF(第一次UWF)には参戦したものの、大ブームとなった新生UWF(第二次UWF)には不参加。

当時「新生UWFに移らないのか」と何かのインタビューで聞かれ、「だってあれは、ゴッチさんは関係ない団体でしょ」とひと言。プロレスラー木戸の考えは一貫している。”カールゴッチ”だ。ちなみに旧UWFへ参戦した理由も、「ゴッチさんに、助けてやってくれ、と言われたから」だけだ。

 

木戸の情報が少ないのはその寡黙さも手伝いインタビューなどほとんどされていない、そして試合も派手さもない、といったことが主な理由だ。タイトル歴もあまりないから、TV放送にもそれほどのっていない(旧UWFの第1回リーグ戦優勝はもちろんノーTV)。UWFが新日本に出戻り参戦をしてからは前田たちのタッグパートナーとしてTVに出ていたが、本意ではなかっただろう(もっとも、「仕事」と割り切り特段の感想もなかっただろう)。

 

そんな木戸から、引退後に数少ない生の声を聞けるイベントがあった。もうかなり前だが木戸はとっくに引退していて、トークも興味深い話はいくつも出るものの、試合と同じく明るくアピールをするような場面はなかった。イベントの中で、何度「ゴッチさん」という言葉を聞いただろう。上述のように、プロレスラー木戸のバックボーンはゴッチである、というのが強烈に伝わった。

 

言葉だけなら、誰でもいえる------そのイベントは、木戸のそばに「コシティ」が用意してあった。昔の新日本プロレスファンなら誰もが知る、ゴッチ発案のトレーニング器具だ。

「もう新日本では、誰も使わないからもらってきたんだ」。

そう紹介したコシティを、イベントの最後に木戸は実際にやってみせた。

そのころの私は往年の選手たちのイベントをよく聞いていたが、現役さながらのトレーニングを実際に見せてくれた選手はいない。またコシティを振り回す木戸の体は、現役としてリングにまだ上がっている選手よりも、遥かに逞しかった。

言葉だけではなく、ゴッチの教えをリングを降りてからも実践する男-----木戸に感じた凄みだ。


平成のゴッチルート

『Gスピリッツ Vol.63 』の初期に新日本プロレスへ参戦した外国人レスラーの記事は、すこぶる面白かった。いわゆる「カール・ゴッチしか招聘ルートがなかったので、無名の外国人レスラーばかりだった」というものだ。

 

私はこの時代を、実体験としてはまったく知らない。重ねてみるのは新生UWF前半に参戦した外国人レスラーたちだ。この時も多くはゴッチのルートだったはずだが、既に現役から遠く離れ米マット界と関わりもないのだから、その面子はまったく見知らぬ名ばかりだった。格闘路線であればヨーロッパの選択肢もあっただろうが、ゴッチはそこともほとんど関わりがなくなっているし、欧州マット自体が地盤沈下していた頃だから、そこからの選手は望むべくもない。


ノーマン・スマイリー、ジョニー・バレット、 ウェリントン・ウィルキンスJr.、マーク・ロッシュ・・・といった名前が思い浮かぶ。スマイリー、バレットあたりは雑誌で試合内容に高評価がつけられていた気がするが、数少ない外国人レスラーに日本勢が合わせていた印象もある。またウィルキンスJr.、マーク・ロッシュあたりはゴッチルートかもわからない。来日頻度が高かったバード・ベイルは完全にキックの選手だったから、おそらくゴッチルートではないだろう。

ただ無名と一概には切り捨てられない。スマイリーは後に海外マットでの活躍が聞こえてくるようになったし、ウィルキンスJr.はみちのくプロレスで人気者になった。ベイルはビジネス面での才覚が芽吹いた印象。
解散時のスキャンダラスな話題ばかりにフォーカスされる第二UWFだが、いつかこうした外国人たちがどういう経路で来日したか、UWFをどう見ていたかなどの記事を読みたいものだ。

 

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那須川天心VS武尊のPPVについて

この記事に、試合についての記載はない。

テーマは、次のようなニュースに対してである。

 

天心vs武尊のPPV売り上げが約27億円…格闘技ビジネスに新時代到来か?

 

記事タイトルにある「新時代到来」もだが、記事中の次のコメント

 

時代が動いた。新しいビジネススキームが誕生した(榊原信行氏)

 

も白ける。

正直、PPVなどといつの話だというのが感想だ。

これは格闘技に限った話ではない。数か月前のサッカー、日本代表のアジア最終予選も「DAZNのみで、地上波の放送がない。これは是か非か」などをずっとやっていた。昨年夏の東京オリンピックの時は、「テレビで皆さん応援を」などと政治屋やテレビメディアがのたまわっていたが、なぜテレビなのかまったく理解不能だった(そもそも東京オリンピックなど見る気はなかったし、実際に見ていないが)。

 

こうした一連のことは、日本の権力層、そして国民も終戦の頃とほとんど変わっていないということだ。つまり、街頭テレビの時代。この構造、頭に支配された国が三流以下に落ちた現実は、必然といえるだろう。

最後に格闘技界の問題に言及しておけば、天心VS武尊のようなプレミアム級のカードが続く状況はない。記事中にある次の言葉、

 

これだけのビジネスポテンシャルが格闘技界にあることを実証したことに意義がある。

 

などという空虚で曖昧な言葉でけむに巻く、いつもの常套手段だ。

日本人が格闘技に熱狂しビジネス的にも盛り上がるなぞ、PRIDE全盛期の大晦日で十分すぎるほど証明されているはずだが。

進むことなく永劫に同じことを続けているこの国には、暗澹たる気持ちにさせられる。

 

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前田日明とアントニオ猪木

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前田日明派、アントニオ猪木派というふうに分かれるならば、私は完全に前田日明派だ。理由は、世代がそうだからだ。プロレスを本格的に見始めた時と、ちょうどアントニオ猪木の力が落ちる時期と重なっていた。具体的にわかる方は、「アニマル浜口とのシングル、ジャーマンでフォール勝ちした試合」といえば伝わるだろうか。そのジャーマンの形に、少し形の崩れを感じたのだ。

 

一方の前田は上り調子。とはいえ最初の新日本時代は私が維新軍派というのもあり、どちらかといえば嫌いだった。やはり鞍替えしたのは旧UWFからUターンして以降だろう。
とはいえリング上の前田にそれほど魅力を感じた記憶はない。その後の新生UWFでも「この腹だと、前田が最強とはいえないなあ・・・」という思いを抱いていたもので、魅力的と感じたのは最後の船木戦くらい。むしろさまざまな対戦があったRINGS時代の方が好きだ。

 

以前から「リング上の魅力や実績としては、前田は猪木に遠く及ばないんだよなあ・・・」という思いはあった。そして近年、写真ひとつでも猪木の過去の姿は魅力的だ。より具体的な表現をすれば、カッコイイ。若き日の前田もフェイスの良さはあるのだが、猪木は肉体からそのたたずまいまで、すべてがカッコイイ。
だから猪木の全盛期とマッチした私の上の世代には、多少のジェラシーがある。猪木を同時代で見ていれば、どれほど熱い時代を生きられたことか。

 

 

 


ワルツにタンゴ、ジルバ。そしてニック・ボックウィンクル

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相手がワルツを踊ればワルツを、タンゴを踊ればタンゴを、そしてジルバを踊ればジルバを踊る。

 

昔日に目にした言葉だ。記憶は薄れている、その通りの表現でないのはご容赦いただきたい。

しかしニック・ボックウィンクルが語っていたというこのプロレスに関する流儀は、私の心に強い印象を残した。それは理想であり、手本としたい生き方である。

 

実際にこうしたレスリングを体現するためには、圧倒的な実力がなければ無理だ。NWA神話が絶対的な世界一のベルトとされていた時代、AWAチャンピオンという肩書きはあったもののニックは影のチャンピオンといえた。またプロレスの世界王者が、圧倒的な実力を見せることはない。日本で主戦場としていたのも全日本プロレスだから、ニックは強さ、巧さを兼ねそろえてはいたものの冒頭の言葉のような多彩なレスリングを直に見せることはなかった。

 

さまざまレスリングに対応できること、それもまた”シュート”の一形態かもしれないが、時が経ち意外な場所でニックのこうした姿をかいま見ることになる。Uインターにテーズ、ロビンソン、ホッジという往年のシュートレスラーが名を連ねる中に、ニックの姿もあったからだ。前出の三人に比べニックがやや異質な存在と思うのは、私だけではなかったはずだ。

ただニックの実力がかいま見えたというのは、このためではない。

1992年5月8日のUインター横浜大会(北尾が山崎を粉砕した時だ)で、ビル・ロビンソンーダニー・ホッジのレジェンド対決が発表。しかしホッジが体調不良ということで、急遽対戦カードが変更となった。ロビンソン-ニック−ボックウィンクル。AWAで闘い慣れた相手という見方もできるものの、そこはUインターのリング。シュート色を出した試合が期待された。そうした展開であれば主役はロビンソンとなる。ニックは見事にその試合を受けきった。急な対戦、そして試合内容ともに、まさに冒頭の言葉の体現である。
人生を重ねていくと、ニックのような人の価値がいっそうわかってくるし、今なお強く憧れるものだ。


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